糖尿病とは
糖尿病は、インスリン*作用の不足に基づく慢性の高血糖状態を主徴とする代謝疾患群と定義され、大きくは1型、2型に分けられます。
糖尿病の症状は口渇、多飲、多尿、体重減少が主ですが、軽度であればほとんど症状がないため、糖尿病の存在に気づけず、長期間放置されることがあります。
高血糖が長期間持続した場合は、糖尿病特有の合併症が出現します。
網膜、腎臓、神経などを代表する臓器に異常をきたします。
合併症を防ぐために治療が必要となります。
現在のところ、糖尿病を完治させることはできません。
しかし、糖尿病自体は治せなくても、血糖値を正常に保てば、糖尿病による合併症(網膜症・腎症・神経障害など)を起こさずに、あるいは進展を阻止して健康を維持することは十分に可能です。
一生の付き合いとなる疾患ですので、上手な付き合い方が必要となります。
*インスリンとは
血液中の糖を細胞に取り込ませ、血糖値を下げる働きをしているホルモンです。その他様々な臓器に重要な働きをしています。
1型糖尿病とは
インスリンを産生する膵臓の細胞(膵β細胞)がある時から障害され、インスリンが分泌されなくなってくる、足りなくなってくる疾患です。
若年に発症することが多く、小児にも発症がみられます。
1型糖尿病は急激に発症し、病状の悪化も急速であることが多いです。
しかしその一方で、2型糖尿病の治療中に発覚する、緩徐に進行する1型糖尿病もみられます。
1型糖尿病の症状
1型糖尿病では、血糖値を下げるホルモンであるインスリンの分泌が極端に低下するか、あるいはほとんど分泌されなくなるため、血糖値が著明に上昇します。
急な口渇、多飲、多尿、体重減少はもちろん、糖尿病性昏睡、著明な脱水などの重篤な症状を引き起こします。
1型糖尿病の治療
1型糖尿病の治療は、インスリン注射により、体に必要なインスリンを適切に補充することです。
インスリンの補充をすることで、良好な血糖コントロールをいたします。
それにより、糖尿病を原因とする様々な合併症を防ぐことが治療の目的となります。
また、血糖コントロールに限らず、患者さんのライフスタイルに合わせた治療方法もよく検討し、QOLも重視します。
現在、インスリン補充以外の治療法としては「膵臓移植」もあります。
さらに先進的な医療としては「膵島移植」や「人工膵島」、さらには再生医療や遺伝子治療などの研究も進められています。
2型糖尿病とは
2型糖尿病は、遺伝因子、環境因子(主に生活習慣、過食、運動不足)など様々な要因により、インスリンの作用が不足することにより発症します。
健常な人なら、インスリンが適切に働き、血糖値の上昇を防ぎます。
インスリン分泌が足りなくなることや、十分に足りていてもうまく細胞に作用できなくなる状態(インスリン抵抗性)が2型糖尿病といえます。
重症化すると、血糖コントロールが難しくなってきますし、合併症も発症しやすくなりますので、早期に発見し、治療を始めることが大切です。
2型糖尿病の治療
当クリニックでは医師、看護師、管理栄養士など様々なスタッフの指導のもと、まずは食事・運動療法を行います。
これだけで治療目標値を達成できる患者さんは、たくさんいらっしゃいます。
しかし食事・運動療法だけで血糖値がうまく下がらない場合や、糖尿病性合併症が進行した場合には、内服薬による治療やインスリン療法を行います。
現在、2型糖尿病の治療は多種多様であり、かつ患者さんの糖尿病の病態も様々ですので、患者さん一人一人に合わせた治療方法を検討します。
インスリン療法
注射により体外からインスリンを補う治療法です。
採血検査、身長、体重などから適切なインスリン量を選択いたします。
また、誤解が少なくないのですが、インスリン療法は糖尿病の最終的な治療手段というわけではありません。
昨今、良好な血糖コントロール状態を保ち、合併症を防ぐために、また患者様の膵臓を保護するために、糖尿病治療の比較的早い段階から開始するケースもございます。
糖尿病の検査
糖尿病の診断にあたっては、血液検査や経口糖負荷試験などによる慢性的な高血糖状態の確認、および症状、臨床所見、家族歴、体重歴などを参考にして、総合的に判断します。なかでもHbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)測定が重要です。
HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)とは
HbA1c値とは、赤血球中のヘモグロビンのうちどれくらいの割合が糖と結合しているかを示す検査値です。
HbA1cは過去1~2ヶ月における血糖の平均的な状態を示します。
糖尿病の病態がいいか、悪いか判断できるため、糖尿病診療においては非常に重要な採血検査です。
HbA1c以外にも、糖尿病の状態を判断する数値はグリコアルブミンや1.5AGなど、他にもあります。
また、血中インスリン、血中Cペプチド測定により、自分の体からどの程度インスリンが出ているか判断が可能ですので、必要に応じて測定いたします。
糖尿病性合併症
糖尿病が長期間にわたると、患者さんのQOL(quality of life)、生命予後を脅かす糖尿病性合併症を引き起こします。
とくに糖尿病性神経障害、糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症は3大合併症といわれております。
しっかり血糖を良好に保つことにより、糖尿病性合併症の発症、悪化を遅延あるいは阻止することができます。
糖尿病性神経障害
3大合併症の中で最も早期に発症するといわれています。
特徴としては、長さのある神経(足の先までのびている神経など)から障害され、温覚、痛覚、などの、感覚の障害が主体となります。
熱い、冷たい、痛いといった感覚が鈍くなるので、足の靴擦れに気づけず壊疽になる、やけどに気づけず壊疽になるといった外傷の重症化が起きる場合があります。
その一方で、足がじんじんする、びりびりする、靴下を履いていないのに、履いているような感覚になる、といった症状もあります。
前述の感覚神経だけではなく、交感神経、迷走神経などの自律神経も糖尿病発症早期に障害されるケースがあります。
自律神経が障害されると、血圧の調整がうまくいかず起立性低血圧をおこしたり、腸の活動が障害され便秘を引き起こしたり、膀胱の活動も障害され排尿障害なども引き起こします。
その他めまい、立ちくらみ、男性では勃起障害も引き起こす場合もあります。
これらの症状は発症予防、症状緩和など対策が必要であり、何よりも良好な血糖コントロールが必要です。
糖尿病性網膜症
高血糖状態により、眼球内の網膜の繊細な血管(網膜細小血管)が障害されることで発症します。
糖尿病性網膜症は、軽症では自覚症状はありません。
気づかないうちに重症化(突然の視力低下、視野欠損)しやすく、治療に手術などを要し、最悪失明に至ることもあります。
糖尿病を発症した場合は定期的に眼科に通院し、適切な病態のうちにレーザー光凝固治療などをうけて、視力の低下を防ぐことができます。
発症予防のためには良好な血糖コントロールが必要となります。
糖尿病性腎症
高血糖状態により、糸球体という腎臓内の尿を作っている繊細な血管が障害されることで発症します。
発症初期は無症状ですが、徐々にむくみ、タンパク尿が見られ、重症化すると腎不全となり、生命にかかわります。
現在、重症腎不全に至る場合は人工透析による治療が行われ、生命維持が可能です。
しかし、人工透析による治療は通常、1回約4時間、週に2~3回、定期的に透析を受けることが必要になりますので、患者さんの生活は一変し、QOLが大きく損なわれます。
定期的な検査において、必要に応じて普段の生活、運動、食事の注意点や、薬剤の投与を検討することが必要です。
発症予防のためには良好な血糖コントロールが必要となります。
こんな症状は受診をお勧めします。
- 健診等で「血糖値の異常」を指摘された
- このごろ目立って太ってきた
- 急に甘いものがほしくなる
- よく食べているのに痩せる
- ひどく喉が渇く
- 尿の回数が多く、量も多い
- 尿の臭いが気になる
- いつも残尿感がある
- 下腹部が痒い
- 手足がしびれる
- 足がむくむ
- やけどや怪我の痛みを感じない